お知らせ

模擬会社LinkSが第38回時事通信社『教育奨励賞』優良賞受賞 内外教育2023年9月29日号に掲載されました

内外教育
2023年9月29日号

「府中市立府中明郷学園 学校運営協議会会長」「府中市コミュニティスクール連絡協議会会長」を務めます弊社会長立石克昭が協力させて頂いております模擬会社LinkSの活動が第38回時事通信社『教育奨励賞」優良賞を受賞し掲載されました。


<以下記事同文>

『教育奨励賞』優良賞受賞模擬会社を経営、地元企業も積極協力 第38回時事通信社『教育奨励賞』優良賞受賞校②

●広島県府中市立府中明郷学園

広島県府中市立府中明郷学園(佐伯華彦校長、児童生徒数258人)は小中一貫の義務教育学校で、1学年1クラスの編制が基本。在校中の9年間を通じて学校、家庭、地域、地元企業が一体となって児童生徒を育む「地域協創カリキュラム」に力を入れている。中でも、8年生が経営する模擬会社「LinkS(リンクス)」は、地元企業の協力を得ながら、生徒自らが商品開発に取り組み、販売まで行っている。特徴的なのは「その活動を学校側ではなくて、地元企業が主導しているところだ」と佐伯校長。木材加工会社やジーンズ工房、電器産業などの地域の経営者を巻き込んだユニークな授業風景が同校では展開されている。同カリキュラムでは体系的に地元企業との関わりを深める授業を設定。6年生は「地域活性化プロジェクト」で地元企業を調べて訪問し、インタビュー取材を行う。7年生は実際に職場体験を行い、8年生で模擬会社を経営、9年生はこれまで学んできたことを生かして、自身がどう地域社会に貢献や恩返しができるか、その方法を考え、実践する。(肩書等は取材時)

●社会人として必要な心構えを習得

模擬会社の経営理念には「お客様、地域と会社がつながって一丸となり社会に貢献する」を掲げた。理念を考案したのも生徒たち自身だ。会社は社長、副社長職に加えて、商品開発部長、経理部長、営業・広報部長など計9人の幹部を配置。各部署に所属する平社員を含め、クラス全員の計27人で構成される。それぞれが役職に応じて活動し、地元企業との交渉や、商品開発の計画書の作成、納期を守る責任感など、社会人として今後必須となる心構えを実体験として学んでいく。

旧経営陣だった卒業生や現9年生がこれまで手掛けてきた商品は、木製の名札やエコバッグ、箸、和紙を利用したランプなど多様だ。いずれの商品も完売し、利益も上げてきた。

取材した5月下旬には、新経営陣となった8年生が今後1年間を通して開発、販売する商品を決めるプレゼンテーションが行われていた。生徒は3班に分かれてプレゼン資料を作り、それぞれ「木の食器」「デニムのポーチ」「定期入れ」の開発を提案。保護者や地域の人などに事前に行ったアンケート結果を紹介しながら、それぞれの商品が持つ特徴や、開発する際のメリット、デメリットを説明した。

プレゼンには地元企業の経営者も6人参加。経営者側からの「せっかく木の器に入れるロゴマークをなぜ皿の裏側に入れるのか」との問いにも「皿の表は口に入る所だし、塗装がしにくいから裏側にした」と生徒が即答。「なるほど、ちゃんと考えられていたのか」と経営者側が感心する場面もあった。

プレゼンと質疑応答が終わった後に、最終的には多数決で商品を「木の食器」と「定期入れ」に絞り込んだ。より具体的な商品の仕様などの細部は今後の授業で詰めていくという。

社長に就任した作原日彩来さんは「本当にみんな(この商品に)納得しているか、これで進んで本当に大丈夫なのかという心配が常にある」と胸の内を語った上で「このクラスの個性と団結力を引き出し、思いをしっかり込めた商品をつくりたい」と意気込んだ。

授業に同席した地元企業「タテイシ広美社」の立石克昭会長は「子どもたちは自分が住んでいる地城の企業を知らない。親も知らない。(授業を通じて)われわれを知ってもらうことが何よりのメリットだ」と参加の目的を語る。初期のカリキュラム導人段階から積極的に出席し続け、協力してきたという。「小中学校の頃から地城の企業を知らせていかないと、子どもたちが高校や大学に目を向ける。そっちの方が(就職に優位に)つながるからだ。いったん大企業や大手志向になった子どもたちを、われわれ中小企業側に戻すことは難しい」と指摘。日々の仕事をこなしながら授業に参加することは「わたしはボランティアではなくて、未来への投資だと言っている。見返りがあるからしているんです」と笑顔を見せた。

●地域社会への貢献意識が向上

県教育委員会によると、府中明郷学園の9年生は「全国学力・学習状況調査」の「地城や社会をよくするために何をすべきかを考えることがありますか」という質問項目に対する肯定的回答が、取り組みの前後で45.5%(2018年)から63.9%(22年)に上昇したという。

県教委は学園の一連の取り組みについて「児童生徒は、先を見通して主体的に行動し、仲間と協働的・建設的に話し合い、不得意なことや苦手なことに対して自ら進んで取り組み『自己理解』や『自己調整』『課題解決』する力が着実に育成されている」と評価した。

また、授業によって生徒たちの成長だけではなく「教職員が主体的に地元企業の経営指針発表会等に参加し、事業説明を学ぶなど、教職員自身の自己管理能力やキャリアプランニング能力等の向上に努めるようになった」(県教委)という。夕テイシ広美社の立石会長も「先生方が楽しんでこの授業をやっているので、それが子どもたちにも伝わっている」と好循環が生まれていることを指摘した。

授業を担当する三島加緒里教諭は「授業を通じて『将来起業したい』と言った子もいる。学校でしていることが自分たちの将来につながるという考えを持って子どもたちがここを卒業する」と話す。会社の宣伝ポスターを作製した生徒を引き合いに「当初はネガティブな考えを持っていた子だったが、ポスターはどうあるべきかを一から自分で調べた。皆さんから『いいポスターができたね』といわれ『このポスターはこういう思いでつくった』と言えるようになった。高校入試の面接でもポスターを提示しながら自己PRして、希望校に合格した」と成果を強調した。

心掛けていることは「課題に対して子ども自身が(対応策を)気付くのを待つことだ」という。「教員には難しいところだが、言い過ぎないようにしている。自分たちが気付いた方が自信につながり、良いものができ、子どもたちの思いも全然違うものになる。(授業を通じて)いろいろと成長してほしい」と語った。

商品が開発された後は、道の駅や、インターネットなどでの販売が予定されている。もちろんホームページや注文フォームも生徒たちが制作する。生徒自らが商品を開発し、地域で活躍する大人と接して、社会人としての責任感や心構えを学び、成長する。それを学校、家庭、地域、地元企業が一体となって支える。この授業は、少子高齢化や過疎化によって地元企業が衰退し、さらなる過疎化を招くといった悪循環を断ち切る試みとなるかもしれない。

(岸本一心=広島支社)