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『経済リポート』2022年5月1日号~府中明郷学園8年生が模擬会社LinkSを継承~

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府中明郷学園8年生が模擬会社LinkSを継承
タテイシ広美社ら地元企業支援
文部科学大臣賞を受賞

2017年より小中一貫教育を行う義務教育学校の府中市立府中明郷学園(府中市篠根町656、竹内博行校長、電0847・41・2759、http://www.edu.city.fuchu.hiroshima.jp/~fcmeikyou-shou/)では、8年生(中学2年生)による模擬会社が18年に創設。今年1月には、同校のキャリア教育に対し文部科学大臣から表彰状が贈られた。子ども達を支える竹内校長や同校学校運営協議会会長の立石克昭さん(㈱タテイシ広美社会長)に話を聞いた。(山田富夫)

学校と地域、企業が連携
府中市は全市を挙げて03年から小中一貫教育に取り組み、府中明郷小学校(08・09年で3小学校を統合)・中学校(2中学校を統合)が府中明郷学園として10年から一体型校舎でスタートした。12年には、学校を軸に地域との結びつきを強める「コミュニティ・スクール(=CS、学校運営協議会制度)」研究指定校になり、立石会長(68)が牽引。14年から本格的にスタート。子ども達や教諭が地域行事などへ積極的に参加する中、企業との連携などにも注力した「府中明郷型CS」が確立していった。



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起業家精神を実践 模擬会社がスタート

18年には、地域を味方にして不確実な世界を生き抜く課題解決能力を身につけてもらおうと、アントレプレナーシップ(起業家精神)開発カリキュラムに着手。当時の7年生が模擬会社Crale(クラル)を設立し、地元企業の経営者らを講師に招いたり、企業見学を行ったりして、社長などの役員や広報、企画、総務などの会社組織を作り、役割分担を行った上で子ども達が企業CM作りや商品作成に取り組んだ。

また、通常8年生が行っている職場体験を7年生で行い(18年のみ2学年同時)、その経験を翌年の模擬会社運営に活かしている。昨年はコロナ禍の影響で職場体験ができなかったが、㈱タテイシ広美社(河南町)と髙橋工芸㈱(高木町)が協力し、VRを利用して遠隔で実施できた。

昨年の支援企業は、タテイシ広美社のほか、立石電器産業㈱(元町)、㈲道田木材(河面町)、㈱ヤスダ「ジーンズ企画工房」(目崎町)、豊田産業㈱(三郎丸町)の5社。授業での講師活動や商品開発に協力し、エコバッグや木製名札を商品化した。

立石会長の経営哲学

広島県中小企業家同友会の代表理事を務める立石会長は、都市部への人口集中化が地方の中小企業が働き手や後継者などの人材不足を招き、将来性はあるのに黒字廃業に追い込まれる企業も少なくないと嘆き、「若者を惹きつける魅力ある仕事を地方に数多く創り出すにはどうすればよいか」を改めて考えなければ、と訴える。「大学進学などで都市部へ出ると、故郷へ戻ってこなくなるケースが多い。若年層の人口減少は、働き手や子育て世代の減少であり、地方が衰退する一因となっています」と警鐘を鳴らす。

「経営は簡単なものじゃない、自分勝手なことをしていては何も動かせない、という話は子ども達にもわかりやすい。利益以外のもの、思いやり、即ち他人の立場や心情を察する『恕の心』が大切」という経営哲学を熱く語る。そして備後弁の「いこる」(炭に赤々と火がついた、炎が消えた安定燃焼の)状態になぞらえて、常に何事にも情熱的に立ち向かえる準備をしておくように、と訴える。



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支え合えるクラス作り

そうした薫陶を受けた子ども達は、支援企業との折衝や共同開発などでの計画書の作成、納期を守ることなどの責任感、社会的信頼を得ることの大切さなど、社会人としての基本的なルールを体験的に学ぶことができた。学校も、1-9年生が生活科や総合的な学習の時間で学ぶことと様々な教科で学ぶこととの関連を表にしてまとめて張り出している。各部署に分かれ、お互いの得手不得手や性格などを踏まえて、〝業績〟をあげるためチームワークよくこなせるようになったという。竹内校長やキャリア教育推進教員の三島加緒里教諭は、「男女関係なくざっくばらんに話ができるようになり、みな前向きに、明るくなりました。CSを通した地域の方々や企業経営者の方から学校とは違う視点からの評価が得られることが、達成感も伴ってとても良い刺激になっているみたいです。人前で自分の考えも堂々と話せるようになりました」と話す。

事業継承式を自分達で

新9年生から新8年生への事業承継式が3月11日に行われた。企画や運営、当日の司会など全て新9・8年生が任されている。5年目となる今年から、前年度に使われていた社名「LinkS(リンクス)」を引き継ぐと発表された。8年生の生徒数は36人から28人に減るが、新社長となった立石陽菜さんは決意表明で、地元企業との繋がりをより深めていきたいと意気込んでいた。立石会長も「この子達が将来どういう企業人になるか、今から楽しみです」と笑顔を見せた。

まとめ

子ども達は大人達から〝承認〟されて社会の一員になる。また、大人達の立ち居振る舞いや言葉を通してその地域社会に触れる。近年、地域のコミュニティは崩れ、また、学校はが隔離されることで、子ども達は社会を知る機会は遠のいていた。

「企業活動を通して地元や地域を知ることは、自分達の保護者が社会の一員としてどういうふうに自分達を育てているかを知ること」と立石会長は話す。子どもは親の背中をみて育つと言うが、その背中を見せる機会を改めて与えたのがCSであり、特に将来自分が何になるのか、自分が属する社会とはどういうものか、を実学的に教える場が「府中明郷型CS」なのだ。全国に広げていくに値する、と心から思う。